北千住奇想曲
しばらくの間、ぼくは彼女の言葉に動揺し、葛藤し、そして、思案を続けていた。

別に谷沢藍はそんな気はないかもしれない。
ただ、迷惑を掛けてしまったことのお詫びの気持ちでしかないかもしれない。

でも、だからと言って男を部屋に上げるだけでなくて、泊めてくれるものだろうか。

そんな事をうだうだと考えていると谷沢藍はぼくに声を掛けた。

「ヤマダくん。またえっちい事を考えてない?ただ、悪かったなってそれだけだよ。考えてみれば借りてたお金の件もあるし、アレをチャラにしてさ、タクシーで帰るっていうのも手だね」

まったくその通りだ。
だが、それは不可能だった。
どうやら財布を居酒屋のレジに忘れてきたらしい。

ちょうど支払している時に電話が鳴り出して、そのまま外に行ってしまったから。
先ほどメールがあったのに気がついた。

ぼくが人形町に走り去った直後、店員さんがアサミさんに財布を渡してくれたらしい。
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