北千住奇想曲
「お邪魔します」

明らかに緊張して上ずった声だったと思う。
笑われるかと思ったが、谷沢藍は特に気にしている様子もなかった。

「シャワー浴びる?」

リビングに通されるて綺麗に掃除された部屋を緊張した面持ちで眺めていたぼくに彼女は声をかけた。

少しばかり迷ったが、居酒屋ではアサミさんがガンガンタバコを吸っていたせいでヤニくささが自分でも気になっていた。

綺麗な部屋なだけにこのままでは悪いような気がして、ぼくはだいぶ遅れて「うん」とだけ返事した。

「タオルはこれ、あと着替えは彼のTシャツとスウェット出しておくね。パンツはないけど」

さすがに彼のパンツまでは借りれない。

「ありがと」と小声でいうとぼくは浴室前の脱衣スペースのドアを閉めた。
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