北千住奇想曲
「でもまさかあの三年後、ヤマダくんを彼と同棲中の部屋にこっそりと泊めるなんて想像出来なかったけどねー」

あっけらかんと言った言葉に彼女自身も、そしてぼくも、一気に引き戻される。
そうなのだ。
いま谷沢藍の家にぼくは泊まっている。
粗相はしない、そんな約束で。


「自爆だね、わたし」

しばらく二人を包んでいた静寂を破ったのは谷沢藍の一言だった。

「さすがにさー。男の子とホイホイお泊まりなんて慣れてないんだよね。さっきからなんか緊張しちゃってて」

なるほどこの家に来る途中、考えごとでもしてるのかと思っていたのは緊張してただけだったのか。

「それはこっちも同じだな」

ぼくも正直に言ったが彼女は信じていないようだった。

「嘘だぁー。ヤマダくんが緊張?そんな様子は微塵も感じられないから」

んなことあるか。
多分、いやぼくは確実に谷沢藍のことが好きなんだぞ。
緊張しないわけがないだろう?
そんな事を心の中だけで呟いた。
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