北千住奇想曲
しばらくすると逆側の耳を掃除するために顔を彼女側に向けるようにと促されて従う。
右耳同様に丁寧に耳を掻いていく。
それはまるで夢のように気持ちの良い耳掻きだった。
(当然、夢の中の出来事ではあるが、その時の気持ち良さはまるで夢のようだったのだ)

気がつくと左耳の掃除も終わっていたようだ。左耳から耳かきの感触が消えたまま、彼女は微動だにせずにぼくを膝枕したままでいる。
少し頭の位置をずらし、彼女の顔をぼくは見ようとする。
浴衣ではあるが胸の膨らみが確認でき、その向こう側にぼくをじっと悲しそうな瞳で谷沢藍が確認できた。

どうしてそんなに悲しい目をしているのか、ぼくは問いかけるが彼女は答えずにただ首を振るばかりだった。

浴衣姿の谷沢藍、下から見る彼女を胸、悲しそうな表情。
ぼくは彼女を抱きしめたくなった。
それが本能的、性的な欲求なのか、それとも彼女を愛おしく思う感情からなのか、自分でもわからなかった。
その体制のままでぼくは両手を彼女の腰にまわした。
すると彼女は少しばかり驚いたように体をこわばらせたのがわかった。
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