北千住奇想曲
「すみません。でも、浮かれちゃいないですよ」

一応は否定してみたが、すぐにたたみ込まれる。

「あの社長が遠目で見ただけなのに、ヤマダの様子がおかしいって言ってたよ」
それはマズい。

あの社長がそこまで気がつくレベルとは。

「浮ついているのは別にいいんだよ。昨日だって例の女の子の絡みなんでしょ?」

「はい。でも何かこう進展があったとかそういうんじゃあないです」

アサミさんはじっとぼくを見る。その顔からはどんな感情も読み取れなかった。

「なんかさ、余計な心配なんだけど」

言いにくそうにアサミさんは切り出す。

「浮かれてるヤマダくん見てたら嫌な予感がしてさ。よくあたるんだよ、アタシの」

「勘弁してくださいよ。まだ何もしてないのに」

アサミさんはびっくりした顔で言う。

「あ、そうなの?てっきりその子とはもう濃厚な一夜を過ごしたのかと思ってた。今日の顔だとそうなんだろうなーって」

至ってライトな一夜ではあったがアサミさんの洞察力は侮れない。
一夜は一夜だ。

「まあ気をつけるのだよ。落とし穴はそこここに設置されていると思ってさ」

アサミさんの言葉を聞いてはいたが、あまり現実味のない話だと思っていた。
この時はまだ。
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