ヤクザと執事と私 【1の残り】
「何だよ、龍一。何かいいたいことあるのかよ。」
「いえ、ただ、それは、いろいろ諸説ありますが、マルティン・ルターの言葉と言われているものですよね。」
「・・・?」
「もし、明日、世界が終わるとしても、私は今日りんごの木を植えるだろうという言葉です。」
「・・・何か心に響く言葉ですね。」
特に執事の低く響く声で言われると直接、心を振動させられる感じがした。
「・・・ふ~ん。・・・・変な趣味の奴がいるんだな。」
絶対に意味を理解していない組長。
「そんな変な趣味の奴はほおっておいて、龍一ならどうするんだよ?もし、明日、世界が終わるとしたら?」
「私ですか?・・・そうですね。もし、明日、世界が終わるとしたら、私が、今日、世界を終わらせてあげましょう・・・ですかね。」
「・・・それって・・・」
私は、執事を見つめる。
「・・・ちょっと・・・」
組長も執事を見つめる。
「私以外の人に世界を終わらせられるくらいなら、私が終わらせてしまった方がいいと思いますが。」
真面目な執事の顔。
(・・・やっぱり、この組に普通の感覚の持ち主はいないんだ。)
私は、自分だけは普通のままでいようと心に誓った。
・・・ただ、私も、他の人に私の世界が終わらせられるくらいなら、執事に終わらせてもらった方がいいと思ってはいたけど・・・。