飛翔の月
「で、今から行くのか?」
「何にだ。」
「討ち入るんだろ。」
「…ああ、今からだ。」
町人は歩きだした。
赤魏は付いていくついでに町人をぐるりと見渡す。
ある者は鎌、ある者はクワ、力自慢と思われる大男は太い丸太、刀や槍を持っている者もいる。
『赤魏、本当に良いのだな?』
(ん、珠煌は手ェ出さなくていいよ。)
『言われなくてもそのつもりだ。』
「あのさ、盗賊ってどんな奴ら?」
赤魏は近くにいた中年くらいのひょろっとした男に聞いた。
「血も涙もねえ奴らだよ。
炎使いの集まりでな、どこからともなく現れては金や物を奪って、火をつけてから逃げるんだ。」
「──そうか。」
そういう奴らをのさばらせていた自分が悔しい。
俺だって、朱雀家の人間だ。
今は領主にもなった。
ったく、親父は何してたんだよ。
やるせなさで怒りが込み上げてくる。
──俺も、何か出来たんじゃないのか?
町人たちはどんどん森へ向け進んでいく。
「なあ、何処まで行くんだ?」
「町外れの荒れ寺だ。
つっても、かなり遠いからおれらも滅多に近づかねぇが…。
どうやらあいつ等、それに目をつけて時々いるんだよ。
ま、今日いるとは限らねぇがな。
いなかったら待ち伏せだ!」
「ふぅん。
で、そこまではあとどれ程かかる?」
「んー、そうだなァ。
夜明け前には着くんじゃねぇかな。」
夜明け前まで、まだかなりある。
「それだと、奴ら気づくと思うぞ。
この人数だしな。
逃げるか、待ち構えてたら、どうする。」
「ゲ…っ。
本当か?」
「恐らくな。」
「じゃ、じゃあ俺らは…」
「返り討ちかもな。
俺ならその荒れ寺、場所さえ掴めれば近くまで瞬間移動して連れていけるが…」
「そらァ、すげぇがなァ。」
「おい、うるさいぞ。」
先頭の男に諌められる。
調度良い、あの男に言ってみるか。