飛翔の月
茂みの中から荒れ寺を見ていると、しばらくして数人の男が出て来るのが見えた。
「おい、ありゃあ…。」
他の者たちも気付いたようだ。
…また盗みに行く気か?
「長老様…」
男衆は口々に長老に指示を求める。
そうこうしている間に、盗賊達の姿が小さくなっていく。
「俺が後を追おう。」
赤魏は考えるより先に言葉が出た。
「そう言って俺らを囲み討ちする気か!?」
一人がそう叫ぶと、周りも赤魏に批難を浴びせる。
まだ赤魏を信頼している者はいないと見える。
髪にかけた術を解いてしまえば皆が皆赤魏にひれ伏すのだが、そうするわけにもいかない。
「こうしてる間にあいつら行っちまうぞ。
そこまで怪しむなら、誰か俺について来い。
必ず無事に送り届ける。
その証に、これはあんたらに預ける。」
赤魏は通行手形を取り出すと、長老に渡した。
正直これがないと巫女探しに影響するが、今の赤魏はそんなことは全く考えていなかった。
『赤魏、お前、本当にバカか?』
珠煌もさすがに呆れている。
(ほっとけるかよ。
それに巫女を見つけたって、盗賊やらがのさばってる所の領主なんか御免だね。)
『ハッ!』
珠煌が何を思ったかはわからないが、赤魏のやることを見届けるようだ。