飛翔の月

どうやら大男は声の主に逆らえないらしく、大人しくなった。

「その男だけ連れて来い。」

赤魏を指差し大男に命じるのは、長髪で小綺麗な格好をしている。

大男はバツの悪そうな顔をして、赤魏を持ち上げた。

「至炎…」

伊気と娘二人は心配そうに赤魏を見る。

赤魏はニカッと笑い、

「心配御無用!」

と余裕そうに片手を前に出してみせた。

扉がバタン、と閉まり、薄暗い部屋の中はしん、と静まった。

「…ねえ。」

二人の娘のうちの一人が口を開いた。

髪は肩より一寸ばかり長いところで切り揃えられて、着物は桜色、身長は普通の娘より高く、伊気と同じくらい。

「何だ。」

伊気は目も合わせず反応した。

「さっきは、ありがとう…」

伊気はバッと娘の方を見、目を丸くする。

「俺は、何もしてねぇよ。」

そして、顔を伏せて呟いた。

「でも、あの人の仲間なんでしょう?」

「いや、まあ…」

「あの人、大丈夫かしら…」

部屋は、再び静寂に包まれた。


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