飛翔の月
(本来?)
「俺はなァ、赤魏。
家を棄てたんだよ。」
赤至は顔色ひとつ変えないで酒を呑みつづける。
「棄てた、だと?」
「おいおい、おかしいと思わねーのか。
次男のお前が家督を継いで、今となっては領主サマだ。」
「それは…」
「俺は領主なんて縛られた存在にはなりたくなかったんだよ。
朱雀の神力にも興味ないね。」
「は?
なら、アンタの狙いはなんだ?」
「五つの宝物。
俺はそれさえあればいい。」
「宝物が欲しいなら領主になれば良かったんじゃないのか!?」
五つの宝物とは、朱雀家をはじめとする四神家、及び架倶椰姫の護っている宝物のことで、火鼠の裘、蓬莱の玉の枝、燕の子安貝、仏の御石の鉢、龍首の玉のこと。
竹取物語でかぐや姫の求めた宝物と同じものだ。
領主に代々受け継がれる物のため、赤至が領主になればおのずとひとつ、手に入ることになる。
「お前は知らねんだな、あの宝物の持つ力を。」
「それがどうした!?」
「あれはただの宝でもなければ、古臭いガラクタでもないぞ。」