戸惑いプリンセス
部屋に入ると、本や実験道具が沢山目に入った。
だがそれよりもコーヒーの香りが鼻をつく。
「啓也ここでコーヒー飲んでるの?怒られない?」
振り向きながら訊くと啓也は人差し指を唇に当てて苦笑した。
「和紗が言わなければ怒られないよ。それにこの部屋は俺の場所みたいなものだしな」
「どうして?」
「ここって見れば分かるけど、汚いだろ?壁とか床とか。だから他の理科の教員も立ち入らないんだ」
確かに壁は所々色が違い、床も傷だらけだ。
だが整頓されている今、汚いというイメージは全くない。むしろ和紗にとって落ち着く空間である。
なるほど、と思う。
以前が汚い故に誰も近づかず、啓也を邪魔するものは居ない。
そういう事だろう。
それにしても、啓也の性格がよく現れていて、和紗は思わず笑ってしまう。