戸惑いプリンセス
「何でって。俺もこっち方面だから」
それ以外に無いだろうと言いたげな視線で言ってくる。
「じゃあ何でこの場所なの?」
そうだ。いくら同じ方面でも場所を変えるくらいは出来る。
「ここが一番階段に近く降りられるから」
私と同じだと思いつつも、こいつがその台詞を言うとむかつく。
あくまでも自分が譲る気は無いらしい。
もちろん和紗も譲る気は無いが。
恐らくこのまま安斎悠壬と話していたら平行線だろうから、和紗は続けそうになった言葉を飲み込んで前を見た。
その時ちょうど次の電車が来て、ゆっくりと停車した。
そして和紗は絶句した。
あまりの人の多さに。
混んでるとは思っていたが、ここまでとは予想の範疇を越えていた。
所狭しと詰め込まれている人達が荷物に思える。
これから自分はこういった環境の中で生活すると思うと、少し憂鬱になった。