君、想ふ<壱>
粥を食べ終えると、小姓に椀を渡し、
お茶を持ってくるように言いつけた。
於琴は心臓の病で、よく寝込み、
食も細く、いつも父母に心配をかけていた。そのたびに於琴は悲しくて、いっそ死んでしまったほうが楽なのではないかと、毎日のように考えた。
庭には、桜が舞っている。
枝に房がたわわに実り、可愛らしくて、於琴は羽織をかけて久々に庭に出てみた。春が訪れてもいつも離れからしか見られなかった於琴は、一歩一歩踏みしめるように桜の木まで歩いた。
ひらりひらりと桃色の花弁が空を舞って、さらりとかすかに音をたてて地面へ落ちる。
空を仰ぐと、珍しいくらいに、雲一つなく、於琴は嬉しくなった。
「琴お嬢さん!なになさってるのです?!」
突然名を呼ばれ、驚いた於琴はびくりと肩を震わせた。振り向くと、錦屋に奉公している下人の矢吉が今にも庭へ飛び降りん勢いで佇んでいた。
「矢吉さん、こんにちは。どうかしたの?離れに来るなんて…」
ふと目をやると矢吉はかなり小綺麗な恰好をしていた。
「なにを暢気に!とりあえずお部屋へ入って下さらないと矢吉は今すぐ奥様のところへ行ってご報告いたしますよっ」
「えっそれは止めてちょうだい、矢吉さん!母さんがまた寝込んでしまうわ」