【鬼短1.】顔無し鬼
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−"こっちだよ、ケイタ!"
−"へぇー。古くてでっかい家!農家、って感じ。"
おや?ななちゃん。
今日はうわさのケイタくんを連れて来たのか。
−"農家じゃないけどね、もう。
借金、超残ってるし。畑もたんぼももうないもん。"
−"あるじゃん、畑。これ、ばあちゃんの作ってる野菜?"
−"そーだよ。世界一うまいからね!"
お、分かってるねななちゃん。
おばあちゃんが、きみやおかあさんのために、って作った野菜だもの。
おーだーめいどってやつだ。
買ってきた野菜が、勝てるわけないよ。
−"あ。あの祠?カオナシサマって。"
…え?え?ケイタくん、わたしを見てる…。
知ってるのかい?
−"そ。あたしの、世界一本音がはけるひと、だよ。"
−"へぇぇー。…じゃあ、俺が知らないナナの顔も知ってるんだ。妬けるわー!"
ちょっと、何言ってるのケイタくん!
わたしを恋仇だなんて思ってるのかい?
−"なにゆってんの、ケイタ!"
−"だってーそうじゃん。もし俺とケンカとかしたら、カオナシサマに相談すんだろー?俺、負けてるじゃん!"
…あーあ。ふたりしてそんな大きな声で笑ったりして。
こらこら、昔みたいに周りが全部たんぼなわけじゃないんだから。お隣のアパートから苦情がきますよ!
ケイタくん。
わたしは君の恋仇なんかにはなれませんよ。
わたしは聞くだけなのだから。
どんなに慰めたくても、わたしにはそれをするための声も掌もないのだから。