キミは聞こえる
三章-2
今日は休みである。待ちに待ったホリデーである。
学校に行かなくて済む。
誰にも会わなくて済む。
めんどくさいことに巻き込まれなくて済む。
素晴らしい。
一人って、素晴らしい。
しかも、
ついこの間まではそこらへんに積もっていた雪の溶け残りがようやく消えて、いまではその下で太陽をいまかいまかと夢見ていた雑草や春の花が次々と顔を出して、この町にもようやく鮮やかさというものが見えはじめた。
そして、ここからが重要なのだが、厚手のコートを羽織らなくても外出できるようになったのだ。
素晴らしい。
素手でうろついても、指先が真っ赤にならない。
感動だ。
歩いているだけでぽかぽかと背中をあたためてくれる陽気に自然、顔がほころんで、幸せな気持ちに満たされる。
待ち望んだ瞬間だ。
いつになったら春は、閉ざされた灰色の冬から殻を破って出てきてくれるのだろうと、心の底から待っていた。待ち焦がれていた。
ああ、素晴らしい。
春って、一人って、素晴らしい。
白色の、小さく可愛らしい花が畑のそこここで咲き誇り、それがまた、泉の心を躍らせる。
りんごだろうか、さくらんぼだろうか。
いや、仮にどちらでなくても、綺麗なことにかわりはない。
やはり、春はいいと泉は思う。
そのまま空を仰ぎ、うーんと腕を伸ばした。
そのとき。泉の感動をぶち壊しにするある声が飛んできた。
「あっれー、代谷じゃん。どうしたよー」
思わず首が後ろにがくっとなった。がくっと。
近寄ってくる足音に、またか、と思った。
いったいどうしてこう、どこからでも現れるのだろう。
聞こえなかったふりをして逃げようかとも思ったが、立ち止まってしまってからそれは無理だろうと、涙が出そうになるところをぐっと堪え、声のほうに視線を向けた。
「おーっす」
サッカーボールを器用に蹴りながら駆け寄ってきたのは、
やっぱり桐野進士だった。