キミは聞こえる

 おかしな縁で結ばれているのかもしれない、と泉は思った。

 縁などと言うと赤い糸のような聞こえがしてげんなりするが、あくまでも"おかしな"である。はっきりいってしまえば、嫌な、ということだ。

 夏休みになったら、お祓いに行こうと泉は思った。友香にいいお寺を紹介してもらって。

 そこで、住職は真っ青な顔をして言うだろう。


 ―――あなた、なにか悪いモノが憑いていますよっ!


 そうでしょうそうでしょう。なんとかしてくださいよ。と命乞いがごとく手を合わせながら頭を下げる自分がありありと想像できる。
 二ヶ月先の予定が一つ出来た。

 桐野のボールがころころと転がる。泉のくるぶしにぶつかって、止まった。

「どうしたんだよ、こんなとこで。どっか行ってきた帰り?」

 泥かなにかで汚れたらしいところどころ白く乾燥しただっぼだぼのズボンを引きずるように桐野はやって来た。
 何度も洗い直したような色褪せたTシャツは古着なのか? それとも、仕様か?
 いっちゃあなんだが、みすぼらしい恰好だ。これでお洒落と言われたらちょっと、引く。

 泉は露骨にならないよう気をつけつつもしっかり距離を取って、「病院の帰り」と答えた。
 例によって出勤時間を大幅オーバーしている友香のため、精の付く食事と着替えと糖分摂取の菓子を差し入れしてきたところである。

「毎日大変だなぁ、おまえのはとこは」
「桐野君は? ……なにか、作業でもしてたの?」

 薄汚れた"なり"をして、畑から出てきたということは、夏ないし秋には色づいた実を実らせるだろう木々の間でなにかをしていた―――と考えるのが妥当ではないだろうか。

「交配作業の手伝い」

 交配、と聞いて一瞬、いかがわしいなにかではないかと訝しんだが、木を―――花を見上げる様子に、どうやら受粉のことを言っているようだと気づくと、ああなるほど、と泉は同じように木々たちを見上げ頷いた。

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