キミは聞こえる
「最近蜂が少ないんで自分たちで受粉させるんだよ。部活のない貴重な休みだっつーのにコキ使いやがってウチの親は」
「休み気分を味わいたいならボール蹴らなきゃいい」
「……いや、そういうことじゃなくて。なんつーの? こう、したいことを思う存分出来る日にさせて欲しかったなぁっていう。家の手伝いとかなしでさ、とりあえず午後まで寝たらサッカーして、んでまた寝てメシ食ってゲームしてとか―――……なんで説明しなきゃなんねーのもう。察せよ」
察すかよ。
なぜむすっとされなければならないのか意味がわからない。
こちらに来てからというものまったく忙しさの欠片もない日々を過ごしている泉にとって、(…体力的だけで見るなら)毎日が休みのようなものだ。毎日陽が暮れるまで泥にまみれている男たちの気持ちなどわからない。
「なにわけのわかんねぇ会話してんだよ兄ちゃん」
げらげら笑う声がして振りかえると桐野とよく似た子供がこれまた桐野とどっこいどっこいの薄汚い服装で立っていた。
兄ちゃん、ということは、弟か…?
泉は一度桐野を振り返り、ふたたび少年に顔を向けた。
これまたなんと似ていることか…。母親の遺伝子が強烈だな桐野家は。