キミは聞こえる

 顔を上げると、康士の背後に立っていたのは先ほど声を張り上げていた桐野の兄らしき男だった。近くで見るとさらにデカイ。顔が桐野似で整っている分、バランスが微妙だ。

「いつまでしゃべってんだおまえら」
「兄貴だって休憩しろよ。朝からやりっぱなしだぜ? いい加減疲れた」
「おまえはさぼってばっかじゃねぇか進士!」
「ああもう声がデカイんだよ兄貴はっ」

 耳を塞いで同じくらい声を張る桐野。
 喧嘩なら私を帰してからやってほしい。というか、なぜ私はここで桐野兄弟に挟まれているのだろう。

「あっ、このでっかいのが俺たちの兄貴で長男のユージ。悠久の悠に武士の士で悠士」

 先ほど自分のことは戦士の士と紹介しておきながら兄は武士の士か。まあ、わからないでもないが。
 悠士のほうが目は細めで太い首と広い肩がたくましく、康士よりさらに短い頭髪が男らしい。

 細マッチョな弟軍は武士と呼ばれるよかは戦士のほうがそれらしく思える―――どうでもいい話だが。

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