キミは聞こえる
「どうも」
「兄の悠士です。進士がいつもお世話になっています」
「いえ、こちらこそ…」
社交辞令だ。世話になどなってはいない。
「桐野君、じゃあ私そろそろ帰るから」
「えっ」
「えっ!」
桐野と康士が同時に声を上げた。
どうした、まだなにかあるのか。
無言で桐野下二人を見上げる。とそのとき。
「あらー、泉ちゃんじゃない。どうしたの」
やたらと甲高い声が飛んできたと思い、見るといつかの玄関で出くわした桐野の母親だった。
「こんにちは。さっきそこで桐野君に会ったんです」
「えっ、なんでかあちゃんと代谷が知り合い?」
「前に一回会ったことあんのよ。ああそうだ泉ちゃん。いまから私たち昼ご飯にするんだけど一緒にどう?」
「そうだよ代谷さんっ。食ってこーぜ」
「えっ、でも悪いですよ」
「気にすんなって。食ってけよ。それともなにか用事があるとか?」
「いや、そうじゃないけど」
「じゃあ食べていって。大した物はないけどね。悠、お父さん呼んできて」
「ん」
そうして半ば無理矢理桐野と康士に挟まれるようにして青のビニールシートに座らせられた。遠足な気分だが男が女の倍いるため居心地は微妙だ。しかも、桐野母と桐野を除く3人は初対面で、さすがの泉でも緊張する。
お重三段、みっちり詰め込まれたおにぎりの数に目を瞠る。さすが男三兄弟。1日どれだけ米を炊くのだろう。
「遠慮しないで食べてね」
「すみません…」
家族水入らずの場に自分がいる。
恐縮だ。
というか、
疲れる。