キミは聞こえる
もぞもぞとおにぎりにむさぼりながら桐野家面々の話を泉はぼんやりと聞いていた。
長男の悠士は桐野と同じサッカー部に所属する二年生。高校は同じだ。年子(としご)のわりに体格の差が激しい。悠士のほうが筋肉質で上背もあり、肩幅も広く、細身の両親からは想像もつかないがっちり体型だ。
どちらかの一族にやたらごついのがいるに違いない。
三男の康士は野球部に所属しているらしい。小学校までは兄たちの影響でサッカーをしていたのだが、同時に友人たちと草野球チームを作って掛け持ち生活を送っていた。サッカーも好きだが外野までボールを飛ばしたときの快感が忘れられず中学では野球部に入ることにしたらしい。
「ポジションは?」
「内野。今はショートかな。打席はたいてい三番か五番」
「すごい」
「すっすごい!? そ、そうかな……へへ、すごい」
照れながら鼻の下をこする様子が可愛らしい。
「おっ、代谷は野球にキョーミあり?」
「野球しか、スポーツってわからない」
体育の授業ではルールなど細かくは指導しないため―――というかろくすっぽ聞いていないため―――父が応援するチームのビデオ録画や観戦に行っているうち、野球だけはなんとなく覚えた。
「なんでサッカーじゃねぇの」
「知らないよ」
そんなの父さんに訊いてくれ、と思った。
まさか泉が野球のあれこれを自主的に学んだと思っているのなら大間違いだぞ。
「残念だったわねー進士。あんたも野球部だったら泉ちゃんがマネージャーになってくれたかもしれないのにね」
「なっ! なんだよそれっ」
桐野母がいじわるっぽい笑みを浮かべからかい混じりに言うと、息子は真っ赤になって抗議した。
なぜそうも顔を赤らめる必要があるのかわからない。
いまひとつ二人の会話が読めない泉はもふもふとおにぎりにかぶりつくばかりだ。
「そういえば藤吾(とうご)くんは元気にしているかい?」
いきなり父の名前が飛び出して顔を上げると、それまで黙って食事を続けていた桐野の父がそこに来て初めて泉に声をかけた。