キミは聞こえる
三階にいるはずだと達彦に言われナースステーションを訪ねると、代谷さんは今四階に行ってるわ、とエレベーターへ促された。
病院内はやけに薄暗く、低い天井も相まってひどく息苦しかった。エレベーターは三人乗るのが精一杯の狭さで、荷物を持っていると激しく周りの迷惑になった。
全体的に見て、お世辞にも快適とは言えなかった。
本来病院とは病魔に冒された患者がいるところで快適でないのは当たり前だけれど、それは患者たちを包む空気のことであり、内装に関してはもう少しなんとかならなかったのかと思う。
これでは、ここにいるだけで気が滅入って元気になるどころではない。
泉は基本、具合が悪くなればかかりつけの診療所に行っているから病院にはあまり縁がない。それでも、母が病で倒れたとき通った病院のほうがここよりずっとマシだったと感じる。
おそらく財政的な問題なのだろう。
やたらと足音が響く廊下をひとり進んでいると、通りがけ扉の向こうから疲れ混じりの声が聞こえた。
「―――窓閉めろって言ってんのか? え? なに、そうじゃない? じゃあ一体なんだっていうんだよ」
声の主はまさかの桐野だった。
わずかに開いたドアの隙間からちょうど真っすぐ行ったところに学生服姿の少年がいた。
先程桐野の母親から聞いた、たしか名前は進士。
そう―――桐野、進士。
クラスの人気者でいつも笑顔を絶やさないムードメーカー。
その桐野がいま、なにやら困った表情で仰向けに横たわる老婆を見下ろしていた。