キミは聞こえる

「えっ。死んだ、って…だって、入学式のときもらった名簿には親父さんとおふくろさん二人分の名前が」
「進士」

 幾ばくか刺のある声で桐野を制したのは桐野の父だった。
 そこで泉は察した。

 自分の言ったことが場の空気を明るいものから暗いものに変えてしまったことを。

「気になさらないでください。もう五年も前のことですから。名簿に載ってたのは父さんの後妻の名前」
「そ、だったんだ」

 申し訳なさそうに俯き、視線をそらす桐野に逆にこちらが申し訳なくなる。
 こんなに楽しい場に死などという重たい話は持ち出すべきではないとどうして気づかなかったのだろう。

 弾んでいた会話は怖いくらいぴたりと止んで、代わりに、それまで声に紛れて聞こえなかった食物を噛み、呑み込む音ばかりが畑の一角に落ちていった。

 どう声をかけよう。どう切りだそう。どうしたらこの暗い雰囲気を打開することが出来るだろう。
 もういっそ帰ってしまおうか。泉がこの場からいなくなれば、桐野家たちは元通り明るく食事を続けるのではないか。

 ……だが、ここで泉が席を立てば、それこそ彼らは負い目を感じるのではないか。泉に悪いことを思い出させたと後悔し、責任を感じるのではないか。

 そう思うとおにぎりを置けず、泉も黙って米をつついた。

 そのとき。
 泉の気持ちを感じ取ってくれた誰かがいたのか、携帯が震えだした。


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