キミは聞こえる
すごく、胸が騒ぐ。胸の奥で警鐘がけたたましい音を立てる。
―――おじさん、おじさんおじさんおじさん………っ!!
こんなに苦しいのはきっと急いで走ってるせいだけじゃない。すごくすごく胸が詰まって、呼吸が出来ない。
食べた物が今にも逆流してきそうな勢いだ。
「―――代谷、掴まれ」
差し出されたのは桐野の手だった。遅いから引っぱってやろう、とでも言うのだろうか。
激しく抵抗感があり、嫌だと首を振りたかった。が、足が遅いことは悔しいほど事実で、桐野が泉に合わせてくれているのが現状だ。
このままでは救急車が着くまでに家に帰れないかもしれない。
近所というわりに、"ど"がつくほどの田舎町は隣の家までも歩いて結構な距離があるのが当たり前だ。すくなくとも、隣の家がなにをしているのか物音が聞こえるということはまず、ない。
(―――しょうがない、か)
躊躇いがちに、だがしっかり泉は桐野の手を取った。
次の瞬間。
ぐっと、体が前に引っぱられ思わず背中がのけぞった。
桐野のスピードが速まったのだ。つられて泉の足も動きが素早くなる。