キミは聞こえる
「ばあちゃんの見舞いがてら今からかあちゃんも病院行くって。だからおばさんもちょっとは落ち着くんじゃねーかな。かあちゃんの無駄な元気良さはこういうときけっこう役に立つんだ」
「ごめん、迷惑かけて」
向かい合わせに座り、泉は桐野の前に湯飲みを置く。
と、桐野が怪訝そうな顔をして言った。
「なにが迷惑だよ。俺らご近所サンじゃん。それに―――」
「……それに?」
桐野は視線を左右に往復させながらどこか照れた様子でぼそぼそと続ける。
「友達、じゃん。友達なら迷惑なことなんかないだろ」
―――そういうもの、なんだろうか。
友達、という響きがいまだになかなか馴染めない泉にとって、友達という相手との接し方や話し方がよくわからない。
悲しむことも喜ぶことも、感動することも楽しむことも、向こうではほとんど共有してこなかった。しようとしなかった。必要のないものだった。だから、交わろうとしなかった。
周りがそうであるのに、泉が自分から溶け込もうとすることはまずない。
一人でいることに慣れて、いつしかそれが当然だと思えるようになって、他人に迷惑など滅多にかけることがなかったから、
―――友達なら迷惑なことなんかないだろ
そう言われても、ごめんと返せばいいのかありがとうと返せばいいのかも上手く判断できない。……嬉しいことに変わりはないはずだけれど。
(ヒトって、むずかしい……)