キミは聞こえる
と、不意に目が合って、自分でもわからないが俯いてしまった。
首のうしろあたりが無性に熱くなって、気づいたら下を向いていた。
静かな空間に秒針の音だけが響く。
やがて、時計が昼の一時を告げた。
「お腹、空いてない? 頼むことがあったら来てもらうから一旦家に戻って―――」
「いや、いい。代谷も腹減ってるだろ? あんま食ってなかったよな、おまえ」
余所の家で、初対面も多くいながらがつがつ食事が出来る厚かましさを残念ながら泉は桐野ではないため持ち合わせていないのだ。というか、それが一般的だと思う。
「じゃあなにか買ってくる」
台所の勝手がわからない泉は朝の残りご飯しか居場所を知らない。冷蔵庫はほとんどいじったことがないのでさっぱりだ。チンしたてのほかほかご飯に塩、梅干しではさすがに申し訳ない。代谷家の体面の問題もある。
「いいって代谷。留守番頼まれたのおまえじゃん」
「いいの。もし入院なんてことになったらおばさんたちに差し入れ持ってかなきゃいけないだろうし。ちょっと行ってくるからここにいて」
泉は財布を上着のポケットに入れて玄関のドアに手をかけた。
そのとき。
不意に玄関のチャイムが鳴った。
そのままドアを引いて、ぎょっとした。
―――……な、なんでここに。
驚きのあまり、思いは声を紡がなかった。
思考が止まる。なにが起きたのか、一瞬わからなかった。こんな経験ははじめてだった。
「こんにちは、代谷サン?」
目の前に立っていたのは、先日泉のクラスで手を振ってきた設楽だった。