キミは聞こえる
泉は硬直した。
いかにも人が良さそうなオーラ全開で笑顔を向けると、設楽は呑気に手を振った。
「ど、どうしてここに………」
「いくら教室行っても相手にしてくれないから思い切って来ちゃったけど―――どっか出かけようとしてたの?」
上着のポケットからはみ出した財布に気づいたらしい設楽が首を傾げる。
「そ、そうです。だから今日は帰ってください」
早口でそう言うが、設楽は立ったままそこから1ミリも動こうとしない。
むしろ、通さんと言わんばかりにドアに肘をかけるとつれないなぁ、と甘く囁いた。
小さく歪んだ口角に、鳥肌が立った。
全身が、
こいつはやめとけ!
と叫び出す。
「用件聞くだけなら聞きますから、聞いたらすぐに帰ってください」
「ん~、じゃあ単刀直入に言うケド―――」
「代谷どうした――――――設楽!?」
背後で桐野の声が聞こえた。設楽の唇が大きく歪む。
その直後だった。
桐野を振り返ろうとした泉は予告なくアゴを掴まれた。次の瞬間、設楽の生温かい吐息が泉の唇に触れた。
全身に悪寒が走った。