キミは聞こえる
タオルだって洗面台だって洗濯機だって、掴もうと思えばすがれるものはいくらでもそこにあったのに。
なぜ身近なものにこのどうしようもない震えを止めてくれる術を求めなかったのか、泉自身にもそれはわからなかった。
けれど―――。
「桐野、くん………」
不意に重ねられた桐野の手から、彼の体温がじんわりと伝わって、それが泉の手を、泉の心を心地よい温度で包んでいく。
上と下から桐野の手に挟まれて、それが意外なほど優しくて、泉は喉の奥がかすかに震えたのに気づいた。
「もう、心配ねぇから」
その瞬間。
―――ああそうか、と思った。
私は知らず求めていたんだ。
人の言葉を、人の手を―――。
そして多分、
なにより桐野のそれらを私は強く求めていたんだと思う。
(だけど、どうして―――?)
ふいに桐野の手に力がこもり、泉は顔を上げた。視線がぶつかる。
至近距離の桐野の顔にとくんと今まで感じたことのない苦しいようなもどかしいような馴染みのない動悸がした。