キミは聞こえる
桐野の手が伸びる。
反射的に身を引きそうになってぐっと体を強ばらせた。
それに気づいたのか、桐野はわずかに躊躇の色を見せた。が、彼はそのまま手を伸ばすと泉の毛先をつまんで水気を取るように優しく、何度も毛先に指を添わせた。
それがなんだかすごく心地よくて、くすぐったくて、桐野に毛を引っぱられるだけで胸が苦しくなった。
桐野の手が止まる。
交差する視線に、これまでにないほど胸が騒ぎ声を上げて、呼吸が出来なくなった。
「代谷……その、俺―――」
と、そこで。
真剣な眼差しの向こうで家の電話が静かな廊下にけたたましい音を立てた。