キミは聞こえる
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達彦が倒れたのは≪盲腸≫ということだった。
しばらくは入院と絶食生活が続くが命に別状はないとのことで連絡を受けて、ほっと一安心した。
なにか必要な物があるか、と訊けば特にないと言われたので桐野を自宅に帰し、出張を早めに切り上げて帰ってきた友香の父親とともに病院へ向かうと達彦はすやすやと眠っていた。
苦悶に顔を歪めて、脂汗を額に浮かべながら低くうなり声を上げていたあの姿はいったいどこへやら、である。
「まったく人騒がせなモンだよ」
友香の祖母はそう憎まれ口をたたいていたが、その言葉とは正反対に、表情は安堵の色を濃く映し、睫毛がすこしだけ濡れていた。
万が一の可能性も、視野に入れていたのだろう。達彦とて若くはない。もしかしたら、は捨てきれない。いつでもどこでも付いてくる影のようなものだから。
誰しもが考えたくはないと思っても、そのときはいつ来るか、わからないのだ。
―――私の母さんだって、そうだったんだから……。