キミは聞こえる
三章-4
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「わざわざよかったのに」
「いえ、どうぞお気になさらず受け取ってください」
「その後の達彦さんの具合どう?」
「まだ食事は無理みたいですけど順調に回復しているようです」
「そう、それならよかったわ。そうだわ。せっかく涼杏堂のお饅頭頂いたのだから泉ちゃんの一緒にお茶していかない? そろそろ一服しようかって話していたところなのよ」
今日は好運なことにうるさい息子たちが三人とも部活で出てるから静かでいいわよ。
どう? と桐野母は渡したばかりの包みを持ち上げて首を傾げた。
先日の達彦の一件がようやく落ち着いたところで、泉はある頼み事をされた。
涼杏堂という菓子屋から予約していた菓子折を受け取り、桐野家に届けて欲しいとの友香の祖母からの使いだった。 涼杏堂の饅頭は、そこそこに値は張るがその値段分だけの味というここらでは有名な老舗の名店らしい。食べたことがないので泉は知らないけれど桐野母の嬉しそうな顔を見る限り喜んでもらえたようだ。よかった。
「ありがとうございます。でも、今から病院に友香ちゃんの荷物を届けに行かなくてはならないので」
「あらそう、残念だわ。またきっと寄ってね。泉ちゃんが来るとうちの人も息子たちも喜ぶみたいだから」
「はい。では私はこれで……」
きっとよー! と手を振る桐野母に見送られ、いつもどおりの道を紙袋片手に泉は進んだ。