キミは聞こえる
**
「―――代谷さん、ちょっといいかしら」
「はい。じゃあまた明日ね泉。康士、泉の見送りしっかり頼むわよ」
「ほーい」
「えっ、別にそんな」
いいんだけど、と言う前に友香は別の看護士に呼ばれて行ってしまった。
親しくなれたとはお世辞にも言えない桐野の弟とその場に取り残される。あまり居心地が良いとは言えない。彼の兄にようやく慣れてきたところだというのになぜ先日知り合ったばかりの弟と二人きりにされるのか。
神様はなんて残酷なんだろう、と泉は思った。
これも試練かそうなのか。そうなのだとしたら私は今すぐにでも神のご意向を丁重に無視し、駆け出して、一人で帰ってしまいたい。
「おばあさんのお見舞いは済んだの?」
けれど、そう出来ないのが現実の悲しいところである。
「うん。そっちは?」
「私は荷物届けに来ただけだから」
「そっか。じゃあか、帰ろっか」
「そうだね」
ははは。結局こうなるのである。
「どうぞ」
「ありがとう」
中の開閉ボタンを押せば済む話だろうに、わざわざ康士はボタンを押してさらにドアに手を伸ばして安全を保証しながら泉を誘導する。その仕草がなんとなくぎこちないのはエスコートというものに慣れていないせいだろうか。
「―――代谷さん、ちょっといいかしら」
「はい。じゃあまた明日ね泉。康士、泉の見送りしっかり頼むわよ」
「ほーい」
「えっ、別にそんな」
いいんだけど、と言う前に友香は別の看護士に呼ばれて行ってしまった。
親しくなれたとはお世辞にも言えない桐野の弟とその場に取り残される。あまり居心地が良いとは言えない。彼の兄にようやく慣れてきたところだというのになぜ先日知り合ったばかりの弟と二人きりにされるのか。
神様はなんて残酷なんだろう、と泉は思った。
これも試練かそうなのか。そうなのだとしたら私は今すぐにでも神のご意向を丁重に無視し、駆け出して、一人で帰ってしまいたい。
「おばあさんのお見舞いは済んだの?」
けれど、そう出来ないのが現実の悲しいところである。
「うん。そっちは?」
「私は荷物届けに来ただけだから」
「そっか。じゃあか、帰ろっか」
「そうだね」
ははは。結局こうなるのである。
「どうぞ」
「ありがとう」
中の開閉ボタンを押せば済む話だろうに、わざわざ康士はボタンを押してさらにドアに手を伸ばして安全を保証しながら泉を誘導する。その仕草がなんとなくぎこちないのはエスコートというものに慣れていないせいだろうか。