キミは聞こえる

 エレベーターに乗って下りている間、泉はいつもの癖でなんとなく電光掲示板を見上げた。
 二人しかいないのだからちょっとくらい声を上げて会話をしても問題はないのだろうがそれ以前の問題で、話す話題がない。
 それに、隣でせわしなくズボンを握ったり離したりしている桐野少年が(いったいなにを考えているのか知らないが、とりあえず)いっぱいいっぱいのようだったので話しかけることも出来ない。 

 助かった、と思う反面、意味もなく気まずい気分にもなる。
 しかしここでなにを言えばいいかなんて泉にはわからない。

『今日は天気がいいですねぇ』

 じゃああまりに他人他人だし、年寄りじゃないのだから。

 と、そうこうしているうちにエレベーターは一階に到着した。
 休みで外来はやっていないから人はまばらだ。シャッターが閉められているせいで薄暗い。

「あ、救急車」

 康士の声につられて顔を上げると確かに赤いランプをくるくる回した救急車が敷地の中に入ってくるところだった。休日来院は正面玄関が閉まっているため裏の第二玄関に行かなければならない。駐車場は第二玄関のすぐそばだった。

「急患かな」
「そうかも」

 頷きながらそれ以外で救急車を呼ぶヤツなんているのか、と突っ込んだ―――心の中で。
 同時に、

 先日の達彦を思い出しすこしだけ気分が沈んだ。
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