キミは聞こえる

 おかげで昼間の騒がしさを取り払われた教室というものをはじめて見た。
 静かな廊下など授業中しか知らなかった。吹奏楽部なんかあったんだ、とかすかに聞こえてくる楽器の音色で初めて知った。

 ―――が、はじめてずくしでああ幸せ―――なんてお気楽な考えを持ち合わせるほど泉は器が広くない。
 面倒くさいとしか思えない。
 とっとと決めてとっとと帰りたい。

 それなのに佳乃と来たら見せる写真写真どれもいまひとつなものばかりでなかなか「これでいいんじゃね?」と言うに言えない。
 あからさまに適当に選んでるとも思われたくないし、それ以前に、適当に選ぶにも限度というものがある。

 どれ一つ魅力を感じない。
 テーマとどこかずれている。
 「……ん?」と言わずにはいられない。

 そんなことから、なかなか頷くに頷けず、結局こうして自ら時間を引き延ばしている始末だ。
 なにをやっているか泉、という話だ。

(なんかねーのかよ、マシなヤツ)

 いよいよ我慢できなくなった泉は(早く帰りたい一心で)佳乃からタッチパネルを奪い取るとひととおり画像を見てみることにした。

 
 ―――……が。

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