キミは聞こえる
桐野は隣に看護士をつれて戻ってきた。
連れてこられた看護士と目が合った瞬間、
「あ」
「あっ!」
声が被った。
「友香ちゃん」
「泉!」
「あれ、二人は知り合い?」
知り合いもなにも首にぶら下がっているプレートを見ろ。同じ代谷だろうが。
桐野が連れてきたのは泉のはとこ、友香だった。
スカートの白衣の天使姿ではない、男性と同じズボンタイプの看護士服を着た友香は髪を一本に結わえ、それをさらに上げてピンで留めていた。
「泉、あんたどうしてこんなとこに――ああ、着替え頼まれたんだ。ごめんね」
泉の手に握られた紙袋に気づき、友香は自分のために泉がここにいるのだということを察した。泉は首を振る。
「助かったわ。ありがとね。―――ええと、おばあちゃんは点滴ね。今、替えをもってくるから待っててね」乱れた布団を直しながら、友香は上目に尋ねた。「進士が気づいたの? めずらしいこともあるものね、あんたがそんな気の利いた目配りができるなんて」
「えっ」
友香の褒め言葉に老婆は笑った。
ベッドを挟んで泉の向こうがわ、友香の手を見ていた桐野は恥ずかしそうにうつむいて視線をきょろきょろと彷徨わせた。
「あら、どうかしたの?」
「そのー…気づいたのは俺じゃなくって、そっちの――」
「荷物ここに置いていくから。遅いからもう帰るね」
ぼすんと紙袋を足元に置いて桐野を遮り、泉は踵を返した。
「えっ、代谷さん!?」
「わざわざありがとね。じーちゃんにもいっといて」
泉は肩越しに友香を振りかえり頷いて、老婆に軽く一礼すると病室を出た。