キミは聞こえる
三章-6
どちらからともなくどさっとスクール鞄を足元に落とし、膝に手をつく。
「し、代谷さん、意外に足、はやい、んだね……」
「そんなこと、ないけど、いまはただその……―――――あっ、ご、ごめ、ん」
カーブミラーに映る自分の姿を見て、とっさに佳乃の手を解放する。
あまりに強く掴みすぎていたらしく、佳乃の手の甲にはくっきりと自分の手跡がついていた。「こ、これ……私……」
「ああ、大丈夫だよ。へーきへーき。気にしないで。それよりどうかしたの? 代谷さんがこんなふうに取り乱すなんてめずらしいよね」
ときおり語尾に咳をまぜながら佳乃は言った。苦しげな笑みと、額に浮かんだ汗が申し訳なく、泉の胸を締め付ける。
(どうして―――)
手を、離せなかったのだろう。
一人で走って逃げ出せなかったのだろう。
佳乃を連れてきてしまったのだろう。
自身もまだまだ落ち着かない心臓と、奇妙な味のする喉を咳で緩和させながら泉は己に尋ねた。
なぜ―――。
佳乃まで巻き込む必要など、これっぽっちもなかったのに。
(わからない………。ほんと、どうして)