キミは聞こえる
 運ばれてきたたい焼きとたこ焼きはどちらも焼きたてで、湯気が立っていた。かつおぶしが踊っている。
 たこ焼きを覆うソースのなんともいえない香辛料の香りが鼻を抜けて胃袋を刺激する。
 ぜったい食べられないと先ほどまでは遠慮がちだったにも関わらず、いざ目の前に並べられるとそんな感情は吹っ飛んだ。
 「いただきまーす」と先に佳乃が楊枝(ようじ)を伸ばし、それに続くように泉もたこ焼きを刺し、持ち上げた。

 口に入れて、思わず目を見開く。

「たこ、おっきいね。こんなに大きいの、私はじめて食べたよ」
「そうでしょそうでしょー? こんなに大きいたこ、なかなかないよ。冷凍とかスーパーのとか、ときどきスカのものもあるじゃん? あれ、ほんと信じられないよ。それにどう? 味もなかなか悪くないでしょ?」

 泉は素直に頷いた。
 たこ焼き評論家でもなんでもないけれど、これはたこ焼き界ではかなり上位に入ってもおかしくない味だと思う。

「ここのに慣れちゃうとそこいらのたこ焼きなんか食べれなくなっちゃうよ」
「それ、わかる気がする」
「でしょ? たい焼きも食べてみて。ああ違う、頭じゃなくて尻尾! そこのちょっと焦げてるトコが絶品なんだ!」

 言われた通りひっくり返して尻尾の先をかじる。
 と、皮がさくっと耳に心地よい音を奏で、続けて、あんこの上品な甘さが口いっぱいに広がった。しょっぱいソースのあとだからか、ほどよい甘さがとても舌に優しい。

「ほんとだ、甘すぎないんだね。このくらいが私いちばん好き」
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