キミは聞こえる
「私も! 最近甘すぎるものに抵抗感じるようになっちゃってさぁ、菓子パンもなかなか手が出ないの。昔はどんなに甘っこくても問題なく受け入れてたのに」
「味覚が大人になってるってことだよ」
「だけど私、まだぜんぜん煮物の美味しさはわかんないよ。食わず嫌いの弟がいる手前、いちおう食べてはいるけど、正直なところ好きではないな」
「それは私もそうだよ。和食全般はなかなかね。ようやくちょっとわさびの美味しさが理解できるようになった程度かな」
「嫌いだったの?」
「うん、苦手だった。だからお寿司はずーっとサビ抜き食べてたよ」
「えー! じゃあ法事とか年末とか親戚が集まるとき大変だったでしょ。大人ばっかのときって絶対わさび入りだから」
「それはもう。いちいち刺身とシャリを分けて緑色のところを慎重に取り除いてから食べてた。刺身の裏のわさびって結構強敵なんだよ」
「やだー! それ地道すぎるよ。地味すぎるよ代谷さん」

 腹を抱えて佳乃は笑い出した。

「最近はやってないよ。さすがに高校生にもなって堂々とわさびをほじくる姿を周りに見せる勇気はない」
「それはそうだね。あ、そういえば弟が小学校低学年の頃、いま代谷さんが言ったこととまるっきり同じ事してたっけなぁ。カニ食べてるときみたいに真剣な顔でさ、ああもうそんなに削ったらマグロに穴が開いちゃうよって心配になるくらいわさびと格闘してた」

 懐かしそうに語る佳乃に、泉はちょっとだけ噴き出した。
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