キミは聞こえる
三章-7
商店を出ると、あたりはいつの間にかすっかり闇に包まれており、はるか東の空に月がぽつんと浮かんでいた。
外気温もずいぶんと低くなったようで、かすかに身震いした。
ずいぶんと話し込んでしまったらしい。
(早く帰ろう)
まくっていた袖を下ろしてから、泉は家へ向かって歩き出した。
佳乃と別れて何分くらい経っただろう。たいした距離を歩いた覚えはないが、家まであと数分であることを告げる鈴分け橋が見えてきた。
商店に寄っても、学校から家までの直行コースとさしたる差はないようである。それならばたまになら佳乃と寄り道をして茶を楽しむのも悪くはない、と泉は思った。
「ふっ」
小さく噴いてしまってから、泉は慌てて咳払いをした。あたりを見回す。よかった。幸い近くに人は誰もいないようだ。
(思い出し笑いなんて、私、どうしちゃったんだろう)
めずらしいこともあるものだ、と自分で自分に驚いてしまう泉であった。