キミは聞こえる
≪こういうことだよ≫

 まただ。
 また、聞こえた。
 数メートル先で立ち止まった設楽から投げられた声。しかも、いまのは…………。

 泉は自身の口を手で覆った。

(ど、どう、して……)

 知らず、体が、喉が、震え出す。
 どくどくと鼓動を速める心臓。力の抜けていく膝。激しく胸を揺さぶる感情は―――湧き上がる、恐怖。
 ただただ恐怖が全身を支配して、警鐘が中でけたたましい音を立てる。
 押さえた手を離して、次に泉は耳を塞いだ。これでもかというほど、押しつぶすように強く強く耳を塞ぐ。

(な、んで。私いま、なにも言ってないのに、返事が……―――) 

 ふいに設楽が、わらった。

≪わからないかな。きみの声が、聞こえるからだよ。俺も≫

 自分を指さす設楽。そして、

≪きみも、同じだから≫

 設楽の人差し指は迷うことなく続いて泉へと向けられる。
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