キミは聞こえる
どこに向かうのかとくに決めてはいなかったけれど、泉は駆けた。必死に大地を蹴った。
なにが同類か。なにが俺ときみは同じか。上手くやれる?
ハッ、戯けたことをぬかすな。
誰が貴様なんぞと手を取り合って仲良しこよしやらなければならないのだ。それこそ冗談じゃない。
全力疾走は本日二度目だ。
こんなに早く走れるのか、と自分で自分に感心するほど凄まじい勢いで駆けている。
先日桐野に引っぱられたときよりは劣るものの、春の体力測定でいま走っているスピードが出ていたならば、学年で下から五番目に遅いという惨憺たる結果にはならなかっただろう。
息が切れる。喉が熱い。
それでも足を止められなかったのはすこしでも設楽との距離と遠ざけたかったから。
同類。
同じ能力。
認めてはいない。認めたくはない。だが、
認めざるを得ない事実を泉は、泉自身が身体で体験してしまった。
動かない口。それなのにはっきりと伝わる彼の声。そして。
(読ま、れた……)
己のこころ。
のぞかれた―――内なる自分。
信じられないことと思いながらも、設楽がやったことはまさにそういうことだ。
読んだのだ、泉の心を。
泉がときおり行う"目に見えない、普通の人には出来ない"行為を、設楽はいとも簡単にやりのけたのだ。