キミは聞こえる
三章-8
―――物心つく前から、不思議と、動く口からこぼれる言葉と違う言葉が泉の中だけに漏れ聞こえてくることがあった。
表面上は笑っているのに、口もそれに合う温かな言葉を紡いでいるのに、脳に直接響く同じ声はとても刺のある言葉を紡いでいた。
またあるときは、今にも泣きそうな悲しげな顔をしているのに、相手を嘲笑う冷たい笑い声が泉の頭を揺らした。
正反対の声が泉の聴覚を刺激して、混乱した。
なぜ自分にばかり聞こえるのか。
いったいこれはなんなのか。
どちらが本当の声なのか。
判断も理解も出来なかった幼い泉は何度も頭痛に襲われて、その度に寝込んだ。
それが本心の声であると気づいたのは中学に上がって一年目の夏のことだった。
―――"声"は、いつも聞けるというものではなかった。
あの頃は、自然と無意識のうちに流れ込んでくるものをただそのまま受け入れることしかできなかった。
そしてそれらは、特に、感情が昂ぶっている者の声が大半だった。