キミは聞こえる
 誰だ。

 私を許せないと言ったのは、いったい誰なのか。

 ……いや、そんなこと知らない方がいい。知りたくない。知らなくていいんだ。
 しかし心とは裏腹に顔はぐいぐいと引き寄せられるように掲示板のほうへと動いていく。

 声の主の名前は知らない。

 だが、ただひとつだけ、はっきりしていることがある。

 ―――声は、クラスメイトのものだった。

 顔と名前を覚えるのが不得意な泉でも、国語の音読やその他の授業であてられたときの返事などから、クラスメイトの声だけは顔を上げずとも耳に入ってくるために記憶していた。

 一瞬、間違いだと思った。

 こんな恐ろしい声、聞いたこともない――そう思い込もうとした。
 しかし声は明らかにクラスの誰かのものだった。

 それが事実だ、と本人が一度でも自覚してしまえば、そこからはもう変えることが出来ない抗えぬ影となる。影はどこまでも着いてくる。あれはクラスメイトの声だった。間違いは、無かった。そう思ってしまったのならもう、遅い。あとはない。

 だからなおのことおそろしかった。

 やがて喉が震えはじめ、唇が乾き出す。速まる鼓動。歪んだ視界。ますます落ち着きから遠ざかっていく。

(逃、げなきゃ)
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