キミは聞こえる
　社会で生き残っていくために、みんななにかしらを隠して偽って生きている。子供が大人に成り行く過程でもっともはじめに覚えるのはまさにこれ、ではないだろうか。

　顔色を窺って、言葉を選んで、なんとかそれなりに関係を築いて、これから先のための術を身につける。

　言いたいことを言えない。言わない。なぜなら、言わないことが、生きていくために役立つから。それが賢明だとわかっているから。

　誰かの言いなりになるというのもまた、生き残っていくための一つの術だ。なんとかこのままでいられるように、自分だけがはじかれてしまわないように、自分を我慢して他人を立てる道を選ぶ。

　しかし理那はその掟を―――五十貝の命令は絶対だという暗黙の了解を、破ったのだ。

　己に嘘をつきたくなく、実力を思う存分発揮した。その結果が2番という成績につながった。
　それはとても素晴らしいことだ。それが当然なのだ。あたりまえのことなのだ。

　それなのに。
　五十貝を裏切ったことで、理那は理那自身を孤立の道へと追いやることになった。
　だから泣いているし、クラスへは戻れないと弱音を吐いた。

　決して、理那が誤った道を選択したとは思えない………思えないけれど、彼女自身にとっては、勇敢に立ち向かったがゆえに下された結末が喜ぶ以上にあまりに酷で、心をずたずたに引き裂くものだった。
　それで耐えきれず、クラスから飛び出してきてしまったのだろう。

(まだ結果が張り出されてから一時間も経ってないのに)
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