キミは聞こえる
―――理那は、転校した。
それまでバスで通っていた栄美女学園から、家から徒歩で通える公立中学校に籍を移した。
その年の秋のことだった。
文化祭という名の演劇会に理那は欠席した。
泉の後ろ、ぽつんと空いた座席から流れる冷房が妙に冷たくて、いつもなら開始数分で意識を手放す泉だがそのときに限ってなかなか寝付けなかった。
翌日、学校に行ってみると、理那の机とロッカーから荷物がすっかりなくなっていた。
朝会のときに担任が連絡ついでに「二嶋は転校した」と一言だけ付け足したとき、泉は聴いた。
≪私に逆らうから、こういうことになるのよ≫
声が誰のものかなど、確かめずともわかっていた。
それなのにうっかり視線を向けてしまい、ぎょっとした。
タイミングよく前からプリントが回ってこなければ、そのまま身動きが取れなくなってしまうくらいの衝撃だった。
ちらりとのぞき見た五十貝の顔は、嗤っていた。
冷笑とも言える侮蔑に満ちたその顔はまるで鬼。
実在するはずのはい妖怪がこんなに身近いにいるなんて、とそのときの泉は思ったものだ。
同時に、これ以上人間の本心に触れたくない、と強く望むようになった。拒絶反応と言ってもいいくらいに―――。