キミは聞こえる
三章-9
みんな心になんらかの闇を抱えていることは、理那と五十貝の件で充分すぎるほど理解した。
誰しもが妬みや嫉み苛立ちを抱えて生活している。泉だってそのうちの一人だ―――五十貝ほど極悪ではなくても。
しかしそれらを直に聴いてしまうことほど、おそろしいものはない。
みんな思っている。……ちがう、思っているかもしれない。あの子も、この子も、隣のクラスの子も、"なにか"を、"誰かに"たいして。
曖昧でいいのだ。
すべてを、真実を、そのまま聞き入れる必要なんて無い。
心の声を聞けば、触れれば、また自分は一人この世の鬼を認めることになる。鬼が身近にいる空間で日々を過ごさなければならない。
そんなのは御免だ。
もう心に触れるべきではない
―――そう強く己に刻み込んで、泉はその日から意識して生活するようになった。必要以上は声を聴かないよう、注意した。
それなのに。
(なんなのほんと、あの男………!!)