キミは聞こえる
 *

「―――泉!」

 叫び声が耳朶を強く揺さぶった。顔を上げると友香だった。
 隣を歩く悠士に気づいて目を見開く。

「どうして泉が悠士と?」
「途中でばったり会ったんだ。いきなり目の前に飛び出してきてな。帰り道の途中でおかしなやつに出くわしたらしい。そんで必死で逃げてきたんだ」
「そうだったの。わざわざ送ってくれてありがとね。泉、変なことされなかった? 怪我ない? いつも陽の高いうちに帰ってくるはずなのにいつまで経っても帰ってこないからみんな心配してたのよ」

 両肩を、いささか痛みを感じるくらいに強く掴んで、友香は泉をのぞき込んだ。今日はもう仕事は終わったのだろうか。

「今日は、居残りがあって、それから、クラスメイトに誘われて……それで、遅くなって、心配かけて、ごめん…なさい」

 まるで小学生が母親に謝っているようだった。
 内容の説明も幼稚だし、それにも増して喋り方があまりにも弱々しい。もっとしっかりはっきり発音できればと思うのに、なかなか声はおもうように出てこない。

「ううん、いいのよ。泉が無事に帰ってきてくれて、ほんとうによかった」

 友香の目に涙が見えた。鼻の奥がすこしツンとした。

 友香がいる。目の前に、たしかに友香がいる。帰ってきたのだ。自分の家に。帰ってくることが出来たのだ。無事に、彼らの場所に。
 これ以上ないほどの安堵感に包まれたそのときだった。

「泉!?」
「おい―――!」

 ふっと意識が遠くなった。

 誰かに腕を掴まれた。
 たぶん、悠士だろう。
 しかし、わかっただけで、顔を上げることも、返事をすることも出来ず、視界はあっという間に闇に塗りつぶされた。
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