キミは聞こえる
 代谷の番号を呼び出す。番号を聞いたあの宝探しのあと、いちおうアドレスも交換した。
 しかしいま、彼が選択しているのはアドレスではなく、電話番号のほうだった。文章ではなく、口で会話がしたかった。

 もとより桐野はメールより電話のほうが好きだった。
 打つのが格別遅いというわけではないのだが、手っ取り早く会話が出来るということはもちろん、メールだと下手に飾ったり、いろいろと気遣ったりしなければならないのが面倒でならなかった。

 しかしこういうとき、使うべきはやはりメールなんだろうと思う。―――兄貴から帰り道のこと、聞いた。大丈夫か。心配だから、よかったら返信して欲しい。でも無理はしなくてもいいからな。―――……留守電という方法もあるけれど、それより適当なのはメールのような気がする。

 だって。

(付き合ってるわけでも、ねーんだし……)

 そこまで親しい友達というわけでも、ないのだから。留守電は、重い気がする。
 かち、とボタンを押してアドレスを選択する。メールの新規作成画面が表示される。

『―――そうか、まだ目は覚めないか。熱はあるのか? ないのか、ならよかった。じゃあ風邪ではねぇんだな。やっぱ疲れか』

 疲れだけではないだろうと言っておきながら友香姉としゃべるときは彼女に合わせるらしい。調子のいいことだ。弟だけ不安がらせて、友香姉には余計な心配を増やさないようにとの配慮だろうが、なら言われた俺はどうすればいいのだ。いまさら聞かなかったことになんか出来ないし、だけど代谷とは連絡が付きそうもない。

(いったいあいつになにがあったんだ)

 最後に代谷を見たのは放課後。あいつは怒っていた。怒りは、はじめは設楽に向けられていたものだった。だが、その途中で。

 ―――『帰るよ!』

 栗原へと投げられた声。一瞬、誰が言ったのかわからなかった。あれほど声を張り上げた代谷をはじめて見た。

 怒号、とまでは言わないのかもしれない。しかしそれに近いものではあった。あの場に居合わせた部活仲間の小野寺(おのでら)が目を見開いて固まっていたから。

 帰り道、小野寺はしみじみと俺に言った。

『あんなふうに怒鳴ったりするやつだったんだな』
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