キミは聞こえる
代谷のことを知らない者はいない。すくなくとも一年の中にはいないだろう。
学年のおよそ九割が同じ中学から上がってくる鈴森南高校。高校に進学して、あらためて覚える必要のある人数はとても少ない。
そのために、外部からはじめて町にやってきた者については、半ば転校生のような扱いを受けるのが通例だ。みんな興味があってのぞきに行く。そこで名前と顔を知る。ほんとうの転校生でないため集会を開いて紹介まではしないものの、全員がなんらかの方法で代谷やその他はじめて見る面々を記憶する。小野寺もその一人だった。
あんなふうに感情をむき出しにして誰かを急かす者だとは思いもしなかったのだろう。
とくに代谷は、学年の一割に含まれるまるっきりの他人の中では有名だった。大人しく、賢く、なかなかに器量もよい。さすがは栄美出身者。そう、ある意味で浮いた存在だった。
その、笑わない大和撫子として広まっていた寡黙少女が突然見せた意外すぎる一面に、小野寺も桐野も驚きを隠せなかった。桐野や小野寺に限らず、皆が持ち合わせているだろう代谷にたいする印象と、まるっきり真逆の姿を目の当たりにしてしまったのだから。
(………)
「なぁ、昨日、写真撮影が終わってから代谷とまっすぐ帰ったか?」
「う、ううん。中森商店に一緒に行って、すこしお茶してから帰ったよ。あのときは何ともなかったのに、きょう休みだなんて……私なんだか自分のせいのような気がしてさっきから落ち着かなくて。代谷さん、大丈夫かな」
「連絡とかしてねーの。栗原は知ってんだろ、代谷の連絡先」
「し、知ってる、けど、もし寝てたら悪いし……それに」
そこまで言うと、栗原は黙ってしまった。
続きは、なんとなくだが想像がついた。
おそらく栗原は、代谷から返事がないことが怖いのだ。自分のせいかもと言いながら、いざ返事が来なかったとき、それがまるで自分のせいだと言われたような、決めつけられたような気になるのがおそろしくて、携帯を開くことが出来ないのだ。
しかし昨晩の悠士の話を聞く限り、代谷が倒れた理由に栗原は関係がない気がする。桐野は敢えて先を尋ねず、言った。
学年のおよそ九割が同じ中学から上がってくる鈴森南高校。高校に進学して、あらためて覚える必要のある人数はとても少ない。
そのために、外部からはじめて町にやってきた者については、半ば転校生のような扱いを受けるのが通例だ。みんな興味があってのぞきに行く。そこで名前と顔を知る。ほんとうの転校生でないため集会を開いて紹介まではしないものの、全員がなんらかの方法で代谷やその他はじめて見る面々を記憶する。小野寺もその一人だった。
あんなふうに感情をむき出しにして誰かを急かす者だとは思いもしなかったのだろう。
とくに代谷は、学年の一割に含まれるまるっきりの他人の中では有名だった。大人しく、賢く、なかなかに器量もよい。さすがは栄美出身者。そう、ある意味で浮いた存在だった。
その、笑わない大和撫子として広まっていた寡黙少女が突然見せた意外すぎる一面に、小野寺も桐野も驚きを隠せなかった。桐野や小野寺に限らず、皆が持ち合わせているだろう代谷にたいする印象と、まるっきり真逆の姿を目の当たりにしてしまったのだから。
(………)
「なぁ、昨日、写真撮影が終わってから代谷とまっすぐ帰ったか?」
「う、ううん。中森商店に一緒に行って、すこしお茶してから帰ったよ。あのときは何ともなかったのに、きょう休みだなんて……私なんだか自分のせいのような気がしてさっきから落ち着かなくて。代谷さん、大丈夫かな」
「連絡とかしてねーの。栗原は知ってんだろ、代谷の連絡先」
「し、知ってる、けど、もし寝てたら悪いし……それに」
そこまで言うと、栗原は黙ってしまった。
続きは、なんとなくだが想像がついた。
おそらく栗原は、代谷から返事がないことが怖いのだ。自分のせいかもと言いながら、いざ返事が来なかったとき、それがまるで自分のせいだと言われたような、決めつけられたような気になるのがおそろしくて、携帯を開くことが出来ないのだ。
しかし昨晩の悠士の話を聞く限り、代谷が倒れた理由に栗原は関係がない気がする。桐野は敢えて先を尋ねず、言った。