キミは聞こえる
「べつに栗原のせいじゃねーだろ。俺も詳しいことはなにも知らねーけど、単に疲れが出ただけだろうって代谷の従姉は言ってたから。栗原が気に病む必要はないとおもうぜ」

 栗原はぱっと顔を上げた。「ほ、ほんとにそうおもう?」

「ああ。だからさ、メールの一通も送ってやれよ。代谷って喜怒哀楽が薄いヤツだけど、弱ってるときのメールって誰からもらってもうれしーもんじゃん。深く考えないで、元気になったらまた寄り道してどっか行こうよ、とかなんとか素直に打ちゃーいいとおもうよ俺は」
「そっか。……うん、わかった。じゃあ私、思い切ってメール送ってみるよ」
「おう。きっと喜ぶと思うぞ」

 にっと笑うと、栗原も笑顔を見せて頷き、携帯を握りしめてどこかへ行った。
 代谷と親しくなるまでずっと縮こまってばかりいた背中が、そのときだけはすこし大きくなったように見えた。

 栗原が角を曲がって見えなくなると、入れ替わるように今度はそこから設楽が現れた。
 反射的に睨み付ると、桐野の視線を感じたのか設楽の目が桐野に向けられた。視線が交差する。いつもの嫌らしい微笑が朝からなんとも不愉快だった。

 さっと目をそらし、教室へ入る。
 空席の代谷の机にはやはりなにも置かれてはいなかった。

「今日、泉遅いねー」「めずらしく遅刻かなぁ」と千紗、響子が代谷の机をちらちら見ながら話しているのが聞こえた。
 クラスメイトに挨拶を交わしながら席に着き、電源を切るためいつものように携帯を取り出す。
 着信履歴に変化はない。新着メール受信をしてみても、新たなメールは確認できなかった。

(やっぱまだ、気づいてないんだろうな……)

 おそらくそうだろうと思いながらも、やはり連絡がないと気になってしょうがない。落ち着かない。妙にそわそわしてしまって、授業はまるで身に入らなかった。
< 190 / 586 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop