キミは聞こえる
「桐野君」
「なんだよ」
「あと十分くらい時間、ある?」
「あったら、なに……?」

 そういう読めない質問をいきなりするのはやめて欲しいとおもう。どきどきしながら続きを待つと、代谷はおもむろに立ち上がり、リビングのテレビのほうへ歩いていった。 残りの水まんじゅうを口に入れて桐野も後を追う。

「これなんだけど」

 そう言って代谷が持ち上げたのは、一本のゲームソフトだった。
 それも、かなりリアルなキャラクターが登場する対戦格闘ゲーム。およそ代谷のキャラからは想像が付かないゲームだ。
 ……いや、別に偏見というわけではないが、どちらかというと代谷は、脳トレとか、物語性の強いRPGを好むほうだと思った。まぁ―――そもそも、ゲームをするのか、と一番にそこが気になったのは間違いないけれど。

「桐野君、持ってる?」
「俺のじゃねーけど、康士は持ってる。やってるとこ見せてもらったけど、けっこーおもしろそうだったな。それ、おまえの?」

 代谷は首を振った。「友香ちゃんの。私はなにも持ってない」

「じゃあなんでいきなりこれ持ってるかなんて訊くんだよ」

 尋ねながら隣にしゃがんでテレビ下の台をのぞく。そこにはたくさんのDVDと、それに負けず劣らずぎっしりとゲームソフトが並べられていた。
 しかしソフトばかりではない。
 去年発売されたばかりの最新ゲーム機から桐野家でもお馴染みの一世代前のゲーム機まで一通りそろっっている。

「すげぇな。友香姉がゲーマーってことは知ってたけど、まさかここまでとは」
「これで驚いてたら友香の部屋を見たら桐野君開いた口がふさがらなくなるわね」

 くすくすと友香の母の笑い声がして振り返り、「どういうこと?」と代谷へ視線を戻す。
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